『私はもう駄目かもしれん。』

 好奇心が旺盛なのはよいことだ。
 というのは、ロード・エルメロイ二世も強く理解するところである。
 カルデアのマスターである藤丸立香は万事に対して好奇心が旺盛で知識欲が深く、学ぶ姿勢も意欲にも満ちた優秀な生徒である。
 だが別にその気質をベッドの上まで持ってこなくてもよいのでは、むしろ持って来るなどうして持ってきた。

「先生、一生のお願いなんです!」

 目の前で両手を合わせて拝み倒しているのはカルデアのマスター藤丸立香その人なのだが、今のマスターは根本的なところが致命的におかしい。普段からおかしな言動をすることはあったがそういうレベルではない。
「……その前に、お前は本当に立香なのか?」
 ラフな格好でベッドの上で胡坐をかき、ロード・エルメロイ二世は同じくベッドの上で正座して向かい合っている立香……と名乗る少年に怪訝な目を向けた。
 少年。そう、目の前には少年がいる。ロード・エルメロイ二世の知る藤丸立香は十代の少女であって、断じて同じ年頃の少年ではない。まさか今まで盛大な勘違いをしていたなんてこともあるわけがないし、カルデアに所属する人間もサーヴァントも謎の生物一匹も、藤丸立香は女性であるという認識を持っているはずだ。
 それが似ても似つかぬどころか性別まで変わってしまった人間がその名を名乗っている。しかし確かに、少年が膝の上で握りしめている右手の甲には確かに令呪もある。ちょっと形は違うような気がするけど。
 ではやはり立香ではあるのだろう。全く信じられないし信じたくないが令呪の存在は何よりも確かな証拠だった。藤丸立香はどういう理屈か男になってしまっているわけだ。理由や原因については考えたところであまり意味はないだろう。このカルデアには若返りの霊薬すらホイホイ調達できるサーヴァントがいるのだ。性別転換の霊薬があったところでおかしくもない。……多分。
「そうですよ! 先生の大好きなかわいいかわいい立香ちゃんですよ!」
「その図々しい言いぐさは確かに立香だな」
 呆れた彼の口から紫煙が緩慢に垂れ流される。大体なんで、男になったというのにそう平然としていられるのだろうか。適応力が高すぎるにも程があるだろうに。
 まじまじと観察してみると、やはり元の彼女の面影は少ない。
 髪は黒、目の色は青、背の高さは十五センチほど伸びているだろうか、ついでに言うなら骨格は当然男のものだし、体格でいうとエルメロイ二世よりも腕力はありそうだった。先生ちょっとショック。
「君が立香だというのはまあ、信じられんが信じよう……それで何が望みだと?」
 煙草をもみ消して大きなためいきと共に尋ねたのを激しく後悔した。
「先生今すぐセックスしましょう!」
「……」
 ありとあらゆるものが停止した。何を考えることもできないまま、ロード・エルメロイ二世は藤丸立香の、やたらとキラキラ輝く笑顔を見つめていた。髪の色も目の色も、根本的に性別も違うがこの人の迷惑を省みず我欲を貫き通す姿勢は確かに立香だな、などと思ったのかは定かではない。
「返事がないってことはOKですね!」
「は!? いや待てなんでそうな――」
 最後まで言わせてもらえなかった。ルパンダイブよろしく立香が勢いよく覆いかぶさってきたために。
「なんでって、愛し合う二人がこういうことするのは当たり前じゃないですか♡」
「例え愛し合っていても合意がなければ強姦だ馬鹿者!! 大体私は男だぞ!?」
 冗談抜きに身の危険というか貞操の危機を感じてしまったので声を荒げてしまうと、立香の目が丸く見開かれる。
「何当たり前のこと言ってるんですか? 先生はいつも通りかっこいい英国紳士ですよ?」
 あまりにも平然としているものだからついつられた。
「ん、そうか、ありがとう。いやそうじゃなくて」
「いいじゃないですか一発くらい。減るもんでもないし」
 しれっととんでもないことを口にしやがった。エルメロイ二世は胃痛の予感を覚えながら長く細い溜息を吐いた。
「――一発とか、レディが口にするものでは……男だったな……いやそもそも君は女性なのだから」
「そうそう、元は女性だから今セックスしてもおかしくないよね」
「なんでだ!! おかしいだろうが!!」
 思わず大声で激昂してしまう。いかん、だいぶ相手のペースに飲まれているな……と冷静を心掛けようとするエルメロイ二世に馬乗りになったまま、立香は口をとがらせてぶーたれた。
「えー。だって今のうちに男の子の体がどうなってるか知りたいじゃないですかー。どこをどう攻めたら気持ちいいのか確かめたいじゃないですかー後学のために」
 言いながら、エルメロイのシャツの裾から手を差し込んで肌に触れようとする。その手をぴしゃりと叩き落としてじっと睨んだ。
「一人でやれ、巻き込むな」
「ひどい! まあそんなの建前で単に先生をひいひい言わせたいだけなんですけど」
 叩かれた手を不本意そうにさする立香だが不本意なのはこっちである。
「お前……」
 エルメロイ二世の口の端がひくついた。
「なにがひいひいだ! 男がひいひい言わされてたまるか! 大体、そもそも、根本的に、男同士なんて気持ち悪くて勃つものも勃たんわ!」
 無理やり引きはがそうとするのだが、純粋な腕力はやはりあちらに軍配が上がるらしい。こんなことで強化を使うのも馬鹿馬鹿しいがやむをえまい、と、呼吸を整えようとするがそれもくだらないわがままに阻まれる。
「だってせっかく生えたバベルの塔だって使われないと持ち腐れです! それとも先生はわたしが他の誰かとあーんなことやこーんなことをしてもいいんですか! わたしは嫌です! あんなことやこんなことも先生としかしたくない!」
 やだやだ! と駄々をこねるこどものように立香は首を振って抗議した。
 うーん、愛されているのかどうなのかよくわからない。それでも確かに、マスター相手ならすんなりと体を許しそうなサーヴァントがこれだけいる中でそちらに見向きもせずまっしぐらに自分を求めてきたのは愛なのかもしれない……。
 と、エルメロイ二世は考え込んでしまう。傍から見たらあっけなく絆されて陥落しそうなチョロさを感じさせるが当の本人はおそらく気づいていないのだろう。その証拠にこんなことを言い出す。
「……やるかやらないかは別として聞くが、具体的に君は私に何をしたいんだ?」
 前提としての一文はあるものの、これは立香に「もう一押しだ」の判断をさせるに十分だった……ので、嬉しくてついこんなことまで口にしてしまった。
「えっ。具体的にプレイ内容を言わせるんですかこのスケベ」
「……」
 案の定お怒りの冷たい視線を浴びてしまったのでにぱっと笑ってごまかし、
「冗談ですよぉ~。ええと、そりゃもうわたしのバベルの塔で先生のここを、」
「触るな馬鹿!」
 組み敷いた男の尻を触ろうとしてまた手を叩かれた。
「ケチ。まあとにかく先生の処女をもらいたいんです」
「しょっ……」
 処女と言わないんじゃないかそれは。と、的外れの指摘をしそうになったが、結局開いた口は開いたまま塞がらなかった。こいつは本当に頭がどうかしているんじゃないか。何がどうしたら「男になってしまったので恋人を掘ろう」なんて発想になるのか。こんな発想が万国共通であるものか。私の恋人は変態だったのだろうか……いやそんなはずは……どうかこれが一時の気の迷い、男になって下半身でしか物を考えられなくなった弊害とかであってほしい……。
 何も言えずに泣きたい気持ちにすらなっている彼を見下ろし、立香はさらに捲し立てる。
「だって先生はわたしの処女をもらったのに、わたしは先生の初めてとか何にももらってないもん。ずるい。不公平。不平等条約。治外法権。だからわたしが先生の処女をもらったら等価交換、ハッピーエンド、世はすべてこともなし、そして伝説へ――」
 そりゃたしかに自分は立香のいわゆる初めての男なのだが立香に自分の初めての男になってもらおうなんてことは毛筋ほども思ったことはない。いやそもそも立香は女だし。
「……どうしてそう発想がぶっ飛んでいるんだ、今日のお前は」
「愛ゆえです。まあ多少は性欲が勝っていますが」
「意味がわからん。大体、性欲しか感じられんがね……」
「ねえ先生いいでしょう?」
「断る」
 何度目かもう両者ともにわからないやりとりと顛末に、折れたのは立香だった。しょうがないなあという呆れを隠さない顔で長い溜息をつき、人差し指を立ててこう提案する。
「……わかりました。じゃあ妥協案として兜合せで」
 妥協できるか。
「お前は本当に人の都合というものを――!?」
 絶句したのも無理はない。立香はちょうど甲がエルメロイ二世によく見えるように右手を掲げている。そこにあるのは言わずもがな、赤く輝く令呪。
 輝く?
「言うこと聞かないなら令呪使っちゃいますよ」
「おまっ、何を考えてるんだこの馬鹿者!!」
「それが嫌なら言うことを聞いてください。選択肢は二つですよ? マスターに無駄に令呪を消費させて処女を散らせるか、大事な令呪を温存させるために処女を散らせるか」
「……どのみち結論は同じなんだな」
 二つあるとか言っておきながら実際一つしかないじゃないか。
 結果が同じならば前者は令呪を浪費させるだけ愚かな行為になる。理詰めで考えればそういう結論になるのだが正直納得いかない。納得いかないが受け入れるしかない。
「……好きにしろ」
 どうにも誘導された感は否めないがもうこうなったらなるようになれ、だ。言葉通りに四肢を投げ出して降参のポーズのエルメロイ二世に、立香は心底嬉しそうな顔で抱きついた。
「うれしい! よおーし、わたしがんばるね! がんばるから、一緒に気持ちよくなろうね♡」
「……」
 死んだ魚の目で考えることは一つ。
 これが女のままの台詞だったらどれだけ嬉しかっただろうか。
 立香は口付けたり唇を甘噛みしたりとせわしないが、正直男にされても楽しくも嬉しくもない。それを苦笑しながら立香はつぶやいた。
「本当はわかってるよ、気持ちよくなるだけなら一人でもいいって。でも、先生といっしょがいい。いっしょに気持ちよくなりたいもん……だから……」
 制服のバンドを外す仕草は、悔しいことにそれが同一人物であることを如実に示している。
「先生、しよ……?」
 かすれた声の主に愛しい顔がオーバーラップした。
 おかしい、何か一服盛られでもしただろうか。そう考えてはみるがどう考えてもそんな気配はこれまでなかった。混乱と自己嫌悪とわずかな、ごくわずかな情欲に悩むエルメロイ二世をよそに、立香は胸板に頬を摺り寄せて甘えている。そしてさりげなく乳首の位置をさぐっている。あまりにも見当違いすぎて気づかれていないのは幸か不幸か、それはさておき事件の被害者とも言うべき彼は考えるのをやめた。


[chapter: 『私はもうだめかもしれん。』]


 仰向けに横たわったまま、投げ出された右手に絡む彼女、もとい彼の左手を見ていた。男同士の指が絡んでいるのは別にそそられるわけでもないし、むしろ胸やけのような不快感すらあったのだが、そのとき考えていたことと言うと「ああこの子は男になるとこういう手になるのか」という、前提からして破綻した感想だった。
 立香は相変わらず舌と右手での愛撫に没頭している。エルメロイ二世が着ていた黒いシャツは鎖骨の下あたりまでたくしあげられているので、背中のあたりがごわごわとして落ち着かない。おまけに間違った向学心を発揮している立香の手も舌も愛撫というよりはただまさぐっているだけで間違っても快感などは生まれてこない。
 早く終わってくれ。
 情の冷めきった女のように薄く目を閉じたままそんなことを考えていると、
「先生いつのまに不感症になったの?」
 不服そうな声。思わず枕でぶん殴りたくなった。
「誰が不感症だお前が下手なだけだろうがこの童貞!」
「わぁ、なんか手厳しい……手厳しいけど童貞って罵られるのはちょっと興奮するんでもう一回お願いします!」
 どうやら男の姿をしていると当たりが辛くなるらしい。仮に女のまま「下手」なんて言われたらショックだが、今の立香は男で、やることなすこと当然初めてなので下手なのもしょうがない。よってダメージなし。それどころか罵倒されることすらあまりないので目新しい刺激に興奮してしまう。
「かっ……F××K!!」
 咄嗟に口汚く罵ってしまってもへらへら笑ったままだ。
「そうそうふぁっくしちゃうんですよ~だからちゃんと気持ちよくなりましょうね♡」
「お前は本当に、人の話、を!?」
 ずるんとズボンと下着をずりおろされるが、露わになったペニスは縮こまったまま。当然だ。快感と呼べるようなものは一切もらっていないし。
「ああ、やっぱり小さいままだ。うーん……じゃあ先にお口でしますね?」
 立香は当然のように着衣を床に放り捨てると、両足の間に蹲って口淫を始める。
「やめっ……」
「ん……なんで嫌がるんです? 今まで何回もしたのに。大体教え込んだのは先生でしょう?」
「お……教え込むとか、っ、言うな」
 確かに立香の言うとおりこれまで何度も口での奉仕は受けている。まして初めてでもなんでもない。しかし名誉のために記しておくと彼としては教え込んだつもりも意図もなかった。ただの結果論だ。
「言ってみたい台詞があるんですよ、うふふ、体は正直ね、って」
「そうか、それは残念だったな」
 反応なんかするものか。大体、見た目が男である人間にされて嬉しいわけがない。
 のだが。
「……っ、あ、ふ」
悲しいかな体のほうは大変に素直だった。くったりとしていた幹を上下の唇で扱かれ亀頭を舌の根元でぐりぐり刺激されるたびにびりびりと快感が走り、そのうち血の巡りがよくなってきてむくむくと立香の咥内が圧迫されていく。
 首だけもたげてなんとなくそちらを見てしまうのは、見ていないと何をやるかわからないからだ。別に立香を悦ばせようなんて思っていないのに、彼はふと視線を上げて嬉しそうに笑う。
「あー、これ、男の子だとお口も大きくなるのかな、多分いつもより奥まで、入りますよ」
「……君はなんでそう嬉しそうなんだ」
 もう一度口に含もうとしていた動きを止め、立香はにぱっと笑った。
「だって、奥までできたら、先生をもっと気持ちよくさせられるでしょ? そんなの、嬉しいに決まってる」
「……」
 呆れるべきなのだろう。
 それでもどうにかして喜んでほしいという気持ちが今の立香にもあるのは正直嬉しい。応じるように硬さと太さを増した自身を誤魔化すように長い溜息を吐くと、
「ふっ……う、く」
 立香の言ったとおりに奥まで咥えられる。というか、飲み込まれると言ってもいい。先端のくびれまで嚥下するように吸引されて、気持ちよくないわけがない。当然そんな異物を喉奥に入れようものなら拒否反応が出るもので、立香の両目には淫靡な涙がにじんでいた。
「立香、そこまでしなくいい」
 手を伸ばして顔を離そうとするが、立香は抗うようにさらに深くまで咥え込んだ。
「っ、馬鹿、何を……っあ、ぐ」
 情けないことに、のけぞるほど気持ちよかった。止めようとしていたのにその意思すら快感にねじ伏せられて屈してしまう。懸命に声をこらようとして縋るように自分の手を握り締める男が、立香は愛おしくてしょうがない。もっともっと、感じてほしい。その一念で限界まで喉を押し広げようとするが、
「んぐっ、っふ、あ」
 さすがに無理を察して吐き出すように解放してしまう。
 ねっとりと粘度の高い唾液にまみれた男根がずるりと引き抜かれると咥内が性器だったかのようにも思えた。それを見て喉が鳴ってしまう。立香はまだ、けほけほと咽ているというのに。
 ただ、興奮し劣情を刺激されているのは彼だけではなかった。立香は涙をこぼしながらも、今度は猫がミルクを舐めるように舌先でペニスを舐め回し始める。ものほしそうな淫蕩な目で、時折何かを堪えるように身を捩りながら。
「……は、ぁ、先生」
 さんざん嘗め回したペニスから顔をあげ、立香はずるずると這い上がる。エルメロイ二世の首元に鼻先をくっつけるようにして甘えるのは、彼……いや、彼女の癖だ。いつもならたまらなく愛らしい仕草だと感じているので反射的に背中に腕を回して抱きとめてしまい、後悔した。
 なんか、ごつい……。
 大変よろしい骨格に、成長期の少年らしい筋肉がついている。やわらかくないし細くないしかわいくない。おまけに腰の辺りにガッチガチになったペニスがあたっている。あ、本当に紛れもなく男なんだな。という最後のダメ押しだった。おかげでひとしきり興奮して臨戦態勢だったものも戦意を失ってしまう。
 それでも立香はおかまいなしに引き続き甘えた声で囁いた。
「先生、あのね……?」
「……どうした」
 多分、聞いてはいけなかったのだろう。それでもこの手を伸べてしまうのは生来の面倒見のよさゆえか、それとも。
 立香は少し言いにくそうに小さく唸ったものの、意を決して望みを述べた。
「ねえ先生、わたしのも舐めて」
「……は?」
 その一言と同時に腰がぐりぐりと押し付けられるものだから、とぼけて何をと聞き返すこともできない。硬直したままでいると、立香は身を起こしてズボンと下着をずり下ろし、まっすぐに勃ち上がったペニスを見せ付けた。
「先生があんなに感じてたから、わたしのもこんなになっちゃった……先生、わたしのも気持ちよくして?」
「……」
 今更だがそれなりに低い男の声で、女のしゃべり方をされると違和感がひどい。その上ここにきてついに決定的なものを見せられたので脳が考えることを拒否したというか、考えていないことはないが内容は「こいつ意外にデカいな」という感想だったのでやはりどこか逃避しているというか。
 結局、エルメロイ二世はただそれを凝視したまま硬直しているしかなかった。立香のペニスは時折昂りのままにびくびくと跳ねながら先端に滲んだ先走りをぱたぱたと飛ばしている。それが顎の先あたりにかかってようやく、いやに近いなと気づく。立香はいつのまにか膝立ちのまま胸のあたりを跨いでいた。残念、エルメロイ二世にはすでに逃げ場はない。少年の手は体を支えるためにヘッドボードを掴み、
「先生、お願い、お口でして」
 先端を下唇に触れさせようとするその動作から顔をそむけて逃れようとするが、立香とて負けはしない。
「……先生~?」
 むっとしたような声音から、どうあってもフェラチオしてもらうのだという強い意志を感じる。そうはいくか。赤い目元で強請るような声音が少女の物であったらなんでもしてやろうという気になっただろうが。
「一回出したら収まるかもしれないよ?」
 そしたらここで終わりかもね? と、にやついた笑みで立香は唆すがそんなものは通用しない。多分。
「……そんな甘言に惑わされるほど馬鹿ではない」
「なんで? このままだったらこっちもらっちゃうよ?」
 空いた片手が下半身のほうに伸びようとするので慌てて叩き落とす。
「痛いなぁ……男の子って一回出したらすぐ次ってわけにはいかないんでしょ?」
「それは、そうだが」
 だからと言って立香がそう簡単に引き下がるとは思えない。こいつは目的を定めたら何としてでも遂行する女、いや今は男だが、なのだ。
 しかし――
 いくらなんでも立香だって下半身までコントロールできるわけはあるまい。実際今はちょっとタガが外れているようだし。外れたからこんなことになっているのだと信じたいし。
 だったら言うとおり、満足させてやれば多少は理性を取り戻すかもしれない。そこまで期待できなくても、隙の一つは生まれるかもしれない。
 もう一度、立香のペニスを見る。
「……」
 別に自分のだってそうまじまじと見た経験があるわけではないのだが、グロい。よくもまあこんなものを口に入れたりできるものだと感心してしまった。ここで申し訳なさやら立香からの愛情やらを考えてしまうあたり、エルメロイ二世の人の良さというか悪く言うとチョロさが窺える。
「……立香」
「うん?」
「絶対、口の中には出すなよ」
 人生何が起こるかわからないものだ。疑似サーヴァントなんてものになるのも、こんなに年若い子と体を重ねることになるのも、男の身で男根を口に含む羽目になるのも、まったく想定していなかった。
「ひうっ!? あ、あう、っは、なに? な、ああっ、これ」
 いきなり口腔の粘膜にペニスを包まれた立香の腰が引ける。まったくの未知の感覚に戸惑いはあったが、鋭敏な器官がぬるりとなめらかであたたかいものに包まれれば悦楽に身を捩るのは当然と言うべきか。はずみでエルメロイ二世の口から抜けそうになった自身を、いけないと思って元に戻そうと腰を突き出してしまう、それは期せずして抽送の動きになってしまい、
「あっ、あ、だめ、きもちいい、それ、んぐっ♡ せんせ、だめ、らめ、おかひくなっちゃ、ああっ♡」
 思わずどろどろの喘ぎを漏らしてしまう。痛痒いほどに勃起していたものを舌で舐め上げられ唇で撫でまわされ、ただそれだけでも脚の付け根が痺れるほどに感じてしまう。おまけに興が乗ったわけではないだろうが、エルメロイ二世は立香のそれの鈴口を舌先でこじ開けるようにいたぶってみたり、信じられないほどに的確に裏筋に歯の表面を当てて刺激する。
 いっそ意趣返しでもされているのだろうか。立香はすがるようにヘッドボードを両手でつかんだまま、腰を動かしたい衝動を必死でこらえている。経験などないが、そうすればきっと快楽の中に落ちるだろうと確信していた。
「あー♡ やら、やらやら、おちんちんとろけちゃ、あうぅ♡」
 が、今のままでも十分に駄目になっているのかもしれない。聞いたこともないような卑語にぎょっとしつつも、乱れに乱れる立香が女のままだったら……と、エルメロイ二世は落胆すら覚えてしまう。口の中は唾液と腺液が入り混じってどろどろで気持ち悪いしそれらはいっしょくたになったまま口の端から際限なくこぼれていく。あちらこちらをべたべたにしながら、けれど口淫をやめることはしない。悦ばせようというよりは、さっさと終わらせたい一心ではあるが。
 まあ射精も知らぬ童貞なのだからそうもつはずもないだろう。と、彼は目を細め、片手を忍ばせた。
「いっ、う、ふぅっ♡ んくっ、っい!? あんっ、ふあ? あ、せんせ!?」
 立香が一瞬、びくりと背をのけぞらせる。まったく別のところに違う快楽が与えられた、何がどうなっているのかと視線を落とすと、エルメロイ二世の手が立香の陰嚢を下から持ち上げるように愛撫している。
「あっ、ああっ、すご、お……♡ う、ぐ♡ もむのっ、だめ♡」
 嚢袋に触れられるのがこんなにイイとは知らなかった。立香は多重の快感に喘ぎながら、今度自分も試してみようと強く心に誓った。もちろん、自慰ではなくて愛しの先生相手に、である。
 立香が愛ゆえの奉仕の心を強くしている一方、その下では当のエルメロイ二世がめんどうくさそうな顔をしていた。
 つかれた。口が痛い。はやくイけ。
 およそ口にできない悪態を脳内で繰り返しながらさらに責め立てる。じゅうじゅうと下品な音すら立てながらカリ首を吸い、陰嚢と根本は指を使っていたぶるように愛撫する。触れていれば、そして男ならすぐにわかる。ぎゅうと引き攣るように精巣が持ち上がり、亀頭が膨らむ。
「っは、すご、もう、あ、なんか……くる……下から、あついの、こみあげてっ♡」
 射精の予兆はもちろん本人も感じていた。立香は自分でも気づかないうちに、腰を小刻みにゆすっている。先端が口蓋を掠めるたびに爪の先まで甘い快感に支配されて、出したい、出したい、楽になりたい、もうそれしか考えられない。
 エルメロイ二世は眉を寄せたまま小さく頷いた、が、多分立香には届いていないだろう。首を後ろに軽く倒して陶酔にひたり、内腿の筋をひくつかせるのに夢中なのだから。
「ああ、でちゃう、でちゃうよ、せんせ、お口、あっあ、ふうぅ♡ い、いく、いっちゃう、出る、んうううう♡」
 歯止めなど効かなかった。
 一瞬ですべてが真っ白になるほどの快感と解放感に全身が染まってしまう。何度かにわけて断続的に精液が尿道を通過していく、それだけであり得ないくらいに気持ちいい。
 立香は初めての射精の快感に震えるばかりで、やらかしたことなど全く目に入っていなかった。
「はーっ♡ はー……♡ あ……」
 それでもすべての排出が終わると落ち着くのか、腰部の痙攣を堪えつつも視線を下に落とすと、
「お前……」
 エルメロイ二世が睨んでいた。その端正な顔を白い精液で汚されて。おそらく咥内射精は免れたが勢いよく引き抜いたせいであちらこちらに飛沫が飛び散ったのだろう。
「うわぁ……せんせい、やらしー……わたしのせーえきまみれになって、うわぁ……」
 立香は引いているというより「いいもん見た」とでも言いだしかねないほど嬉しそうな顔をしていたので、何を言う気も失せた。
それにしても、口の端からは唾液らしきものが糸をひいたまま、やわらかくなったペニスまで伸びているのもまた淫靡で最高だなと、賢者タイムなど知らない少年が頷く。絶対にこれはろくなことを考えていない顔だと思ってエルメロイ二世がとりあえず顔を拭おうとすると、
「せんせ、だいすき♡ ありがとう♡ すっごく気持ちよかった♡」
 立香に飛びつかれた。
 だけでなく、こともあろうに精液まみれの唇にキスしたかと思うと欲の残滓を舐め取り始める。
 これにはさすがにぎょっとして、
「なんというかその……気にならないのか? 自分が出したものだぞ?」
 自分だったら絶対に嫌だと思って聞いてみるが、立香はけろりとしている。
「ううん? 舐めてみたかったもん。でも先生のより甘かった……」
「そんな比較はいらん!!」
 本当に立香が何を考えているのかわからなくなってきた。単なる好奇心でここまでやるだろうかと甚だ疑問だが、立香ならやりかねないというのも甚だ不本意な確信でもあった。
 ともかくこれで万事解決だろう。
「よし気が済んだな、済んだだろう? じゃあこれで任務完了だ、シャワーを浴びたら出ていき――!?」
犬か猫のようにじゃれつく立香を引きはがそうとするが、
「なんてこと言うんですか、まだ先生が気持ちよくなってないでしょ!」
 あっさりと組み伏せられた(二回目)。何のつもりだと聞くのも恐ろしいが、聞くしかない。
「私のことは放ってお――何を触っている!?」
「何って、ナニ? あらっ小さくなってる」
 目的語を訪ねたわけではない。何故またそんなところを触るのかという話で。
 太もものあたりに跨った立香は、がっかりした表情を隠さずにエルメロイ二世のそれをいじり始めるのだが一向に反応がない。
 おおグレートビッグベンよ、萎えてしまうとは情けない。
 さすがにそれを言うと強化した右ストレートでまっすぐいってぶっとばされかねないので黙っているが。しかしこのままでは突っ込むものもなにもない……と、立香は腕を組み考え込むのだが、
「あ、そっか、勘違いしてた」
 いつものままなら、彼のペニスが萎えてしまえばそこで試合終了だが、今日ばかりはそれは適用されない。なぜならば挿入するのは立香で、されるのはエルメロイ二世なのだから。
「おい」
 あくまで立香の中では、中だけでは、そういうことになっている。
「うっかりしてました♡ 今日はわたしので先生を悦ばせなきゃいけないのに♡」
「待て、人の話を聞け」
「正直突っ込まれる方としての経験しかないから上手くできないかもしれないけど……」
 立香はかわいがるようにエルメロイ二世の下まぶたに軽くキスをし、ばっと身を起こしたかと思うと彼の両足に手をかけた。
 ああ、嫌な予感がする。
「わたし、精一杯がんばります! やさしくします!」
「だから人のはなっ!?」
 そのままぐいっと両足を持ち上げるものだから、当然陰嚢やら何やら、あまつさえ後孔までもが丸見え。さすがにこれは恥ずかしすぎて一瞬エルメロイ二世も呆然と我を忘れた。
「……いー眺め」
 舌なめずりをする立香にぞくりと背が泡立つ。淫蕩な獣のような視線から逃れたくてもどこにもそんな余地はない。腰が浮くほどに脚を上げられていては両腕もバランスを取るのに使わざるを得ず、自由には動かせない。
「これが先生のお尻かあ」
 いちいち言わんでよろしい。と、言いかけた口が開いたまま硬直する。かすかに呻くような音が漏れるだけで、眉間は苦しそうに顰められ、
「――おま、え」
 なんとかひきつるような抗議の声が上がる。
「先生大丈夫? 痛くない?」
 痛くないわけがない。こともあろうにこの女、いや男か、ともかく立香は予告も何もなくいきなり薬指をずっぷと差し込んできたのだから。薬指なのは一応配慮した結果なのかもしれない。エルメロイ二世からは見えないが、それは見事に――あるいは無残にも――第一関節まで挿入されていた。
 異物感に思わず涙があふれた。反射で。それを目の当たりにした立香は慌てて「ごめんなさいー!」と指を引き抜く、それすら痛い。
「いっ……ぅぐ」
「ご、ごめんね……?」
 呻くような悲鳴を立香は気遣ってくれるのだが、まったくもって不本意極まりない。
「いきなり突っ込む奴があるか!! せめてこう、最初は慣らすとか……あるだろう」
 自分だって立香の処女を散らすときにはそれはもう丹念に時間をかけてほぐしてやったというのになんだこの差は。
 立香はその憤りの論点がなんだかズレている気がしないでもないが、言われてみれば確かにそうだと納得した。
「あっ、あ、ごめんなさい! そっか、慣らす……うん……」
 慣らすと言ってもどうしたものか。
 自分がされたときはどうだっただろうか。なんだか快楽でとろとろにされてしまったのであやふやだが、膣以外の性感帯をひたすら刺激して濡らされた、ような気がする。では同じことをすればいい、と、思うのだが、悲しいかなエルメロイ二世のおそらく現状唯一の性感帯であろうものはまったくその気になっていないし、何をしたとしてもぴくりとも動いてはくれなさそうだった。これではほぐれるものもほぐれないし濡れるも何もない。
「仕方ない、こいつの出番ですね」
「……」
 どっから取り出したのかは聞く気にもなれなかった。ローションのボトルを逆さにする立香はやけに楽しそうでうらめしい。まあローションがあるなら多少は楽だろうか、楽であってほしいな、と、彼は半分絶望の色を浮かべている。立香が諦めない以上、もうなんでもいいから早く終わってほしかった。
「つめたかったらごめんね?」
 ぶびゅ、と品のない音を立てて出てきた中身を手に取った立香が指先を滑らせる。言われたとおりひやりとした冷感に身が震えてしまったが、それ以上にこれから起こることが恐ろしい。
「えーと、こうかな?」
 少女のそれとは似ても似つかぬずんぐりとした指が後孔の周りを這い回る。撫でるような優しい手つきや、ぐにぐにと軽く押し込むような動きをランダムに繰り返され、さらに空いたもう片方の手でローションが性器にまぶされる。手のひら全体で包み込みそっと撫でるような愛撫を施されエルメロイ二世は声が上がりそうになるのを堪えた。声を上げたら負けだと思った。
「わぁ、先生、ひだひだがひくひくしてきた……すっごいえっち……」
 が、いくら声を押さえても表情を隠しても、不随意な器官はごまかしようがない。きゅうとすぼまっていたひだが丁寧になぞられたせいか、菊蕾は不規則に収縮するようひくついていた。時折ローションを吸い込むように口をわななかせる中心部が淫らなことこの上ない。
「……っふ、言わんで、いいっ」
 羞恥のために声を荒げようとするも、おそらく快楽の片鱗のために目元は赤く声はかすれてまったく威圧感などない。いつも毅然とした態度の「先生」が自分の両手で乱れている、そう思うと立香の中の薄ら暗い欲が猛るようだった。
「でもこうやって両足上げて丸見えな時点でだいぶえっちですけどもね」
「だか、らっ、言うな……っふ、う」
「言わなくっても先生のおしりもおちんちんもぜーんぶわたしには丸見えですよ? わかってますよね? わたしがわざわざ言わなくても、先生の恥ずかしいところは全部わたしの前でさらけ出されてるんです」
 あえて繰り返し言い聞かせる立香の手の中で、どういうわけかエルメロイ二世のそれが勃起しはじめた。まさか辱められて興奮しているわけがない、これは単に、ローションのせいだし愛撫のせいなのだ。
「……おまえ、覚えて、ろ」
 歯軋りしながら睨みつけても立香にはどれほどのこともない。
「ハイ♡ 先生がこんなにかわいいんだもん、一生忘れません♡」
「……」
 そうか、私が悪かった。全部忘れてくれ。
 今更ながらどうしてこんなことになったのか泣きたくなった。立香はノリノリだしあろうことか自分まで感じ始めているのがわかる。理性はもちろん、「こんなのは何かの間違いだ」とそれを否定し抗うのだがそうすればするほどに快楽が増していく、そうとさえ思えた。
「先生、気持ちよくなることは悪いことじゃないよ? わたしのときにもそう言ってくれたでしょ?」
「あ……あ、う」
 返事をしようとしても口からは意味の無い音だけが溢れては消える。脱力し甘さをはらんだ声に、立香は気をよくしたのか。
「だから……ね?」
 赤い舌がぬうと伸ばされ、無防備な陰嚢をねろりとなで上げた。
「っ……!?」
 びくん、と、体全体が跳ねる。なんだかんだでそっちは当たり前に快感を知っているし求めることもするので、与えられたなまあたたかい感触に歓喜してしまう。
「ああよかった、もうわたしで感じてくれなかったらどうしようかと思った」
 ほっとしたように立香は笑い、続けてローションにまみれてぐずぐずのペニスに舌を這わせた。もちろんその間もすぼまりをくちくちと刺激するのはやめない。
「っ、あ、」
 気持ちいい。と、口からこぼれそうになるのを必死に耐えた。先ほど自分のペニスに施された愛撫を早速立香は実践している。嚢袋を口に含んで舌で転がすような愛撫など初めてだった。間違っているとしてもその向学心は目を見張るものがある、いや、そういう場合じゃないのでは? もはや何がなんなのかよくわからないがおかげで完全に勃起してしまったし、アヌスに指の先が――たとえ爪の先ほどであっても――ぬぽぬぽと抜き差しされているのもわかってしまう。
「あ、あ、りつか、あ」
「ん? 先生、気持ちいい?」
「ふ、うっ……く、もう……」
 やめてくれ。と、言いたかったのだが、立香はまったく、自分に都合のいい勘違いしかしない。
「もう入れてもいい? 入れてほしい? 入れてほしいのね? わかった!」
「馬鹿、ちがっ――あ゛あ゛あ゛ッ!?」
 訂正を求める声はすでに遅く、
「……指、全部入っちゃったね、先生」
 そう告げられたときにはショックのあまりに何も言えなくなっていた。それがどういう意味なのかはかりかねている立香は心配するように眉を寄せる。
「……痛くない?」
 そう聞かれて、痛いからやめろと言えればよかったのだろう。
 しかし生来嘘がつけないせいかあるいは他の理由からか、エルメロイ二世は首を横に振った。実際、恐ろしいことに痛みはさほどなかった。あえて言うならこれは、異物感だろう。そしてそれは、立香が指を動かすごとに存在感を増し、同時に全く別の感覚へと変貌していった。
「ん……あ、すごい……中ってこうなってるんだ」
 内壁を確かめるようにぐ、ぐ、と押しつけられるのがわかる。ローションと腸液でねっとりとした感触が指先にまとわりつくのは淫靡の一言に尽きるだろう。
「あ、っか、は……」
 おまけに掠れたような静かな嬌声がさらに立香の興奮を煽る。もっと乱れた顔が見たい、もっとあられのない声が聞きたい。その一心で指先を動かしていると、奇妙な感覚に襲われた。
「すっごい、うねうねして、あ……先生、だめだよ、そんな……」
「なっ、にが、」
「だってわたしのゆび、勝手に奥まではいっちゃうんだもん」
 立香の指の動きとはまったく別の何かが、吸い付くように蠢いている。
「しるか、そんっ……」
 認めたくない。排泄孔で性感を得ているわけがない。もっと欲しいなんて思うはずがない。
「あー……せんせいのえっち……」
 なのに、肉体も神経も貪欲で、理性だけが置き去りになっている。
「あっ、あ、く……ぅう」
 シーツをつかんだ手に血管が浮いていた。奥歯は食いしばりすぎて痛いくらいだった。そうして懸命に耐えている彼が愛おしくて、立香はふっと微笑みを浮かべる。
「かわいい……よし、先生、もっと気持ちよくなってね」
「んなっ……ぁあっ!!」
 女のようにのけぞっていた。喉仏が不規則に震え、首を絞められているわけでもないのに酸素を求めて喘いでしまう。すでに中指を受け入れていた後孔は、さらに立香の人差し指を咥えこんでいた。
「あ、二本入った! ねえ先生、どこがいい?」
「はっ、ぐ、わかるか、そんっ、なの」
 探るような動きは圧迫感しかもたらさない。好奇心旺盛な指先は縦方向にぐにぐにと広げるように指を開いた、かと思うと、ある一点を求めて内壁を這いずり回る。
「このへん、じゃないかな」
「――ぐっ!?」
 その瞬間、何が起こったのかわからなかった。
 感じたことのない「何か」が一気に全身を貫いて、堪えようなんて思う間もなく、精液が無様に放出されるのを真っ白な頭の片隅がかろうじて認識していた。
「――気持ちよかった?」
 返事をする余裕もない。腹の上にまき散らされた生ぬるい白濁を、立香は指先ですくい取って口に運ぶ。
「ああ、やっぱり先生のは苦い」
 知るか、そんなこと。指先さえ動かせないまま、エルメロイ二世は立香の世迷い言を耳にした。
「今イっちゃったの、わかった? 先生、お尻で感じて射精しちゃったんだよ?」
「……言うな」
「って言うけど、お尻はきゅんきゅん締め付けてるし、もっと欲しいって言われてるみたい」
 ほら、と、立香が愉しそうに笑う。絶頂の余韻から徐々に解放され、確かに立香の言うとおりにアヌスがひくついているのが自分でもわかった。しかし彼には愕然としている間もない。
「っ!?」
 なんの前触れもなく、中に入っていた指が引き抜かれる。その感覚の、えも言われぬ――
「ね? もうぐぽぐぽできるよね? わたしだってもういれたくてしょうがないもん」
 ぴたりと、それが当てられた。鈴口からたれている先走りをこすりつけるように腰を振って立香はおねだりするように首を傾げる。
「まっ……」
 やはりこんなことは無理だ、と、拒否しようとするのだが、立香がここまで来てやめるというのはもうどう考えたって無理だろう。それがわかっているからなおのこと恐ろしい。
「だめだよ先生、ほら、ゆーっくり息吸って、吐いて……」
 腰が沈められる、入ってしまう、立香が快感に眉を寄せている、すぼまりが意思と裏腹に口を開いていく。嘘だ、こんなのは嘘だ。
「ん……入れるね……っふ……く……」
 ねちっこい音を立てながら、誰の予想よりもすんなりとそれは飲みこまれた。
 なんで。と、気づいたら天井を見上げながら一筋の涙をこぼしていた。
 挿入されたショックより、受け入れることになんの抵抗も見せなかった後孔の従順さが憎かった。もうこれ以上は、と思って抵抗するが、立香には通じない。
「っ、う、ぐ……やめ……」
「ごめんね先生、苦しいよね、でももうちょっとだから、もうちょっとで全部入るから」
 太ももの付け根あたりに両手を添えて抱きかかえ、立香が上体をぐう、と前に倒す。ずるずるとペニスが飲み込まれていくのがわかる、内壁が何をもとめてうねっているのか、わかってしまう。それがあまりにも恐ろしい。おかしくなる、おかしくなる、いやだ、たすけて。
「……っふ、は、ああっ!!」
 願いはむなしく、かき消えた。
「っはー……全部入ったよ」
「っ、あ、あ……」
 そんなことは言われなくてもわかってしまった。もう戻れないのでは、という恐怖感と、どうしてこれで感じてしまうんだという絶望で気が狂いそうになる。
「ごめんね先生、泣かないで」
 痛いよね、と、立香は彼の頬を撫で口付けるがそうではない。痛くないから怖いのだ。
「……っふ、あ、りつか、たのむ、もう、やめ……おかしく、なる」
 すがるように指を絡めて、嗚咽混じりにエルメロイ二世は懇願した。
「おねがいだ、ゆるして、くれ」
「――」
 立香は少し、罪悪感の混じった目をそらし。
「ごめんね、先生。――それ逆効果だ」
 一端引いた腰を叩き付けるように律動を開始した。
「あ――ああっ!!」
 揺さぶられる。内臓から脳まで一気に犯される。
「煽られる、ってこういうことかな……ほんと、先生ってば……かわいいんだから!」
 立香は舌なめずりしながら浅いストロークを繰り返し、無意識にエルメロイ二世を言葉でも責めてしまう。生理的な涙を溢れさせた暗深緑の瞳が、開きっぱなしの口から垂れる唾液が、すがるようにシーツをつかむ細い指が、もうすべてが愛おしくてたまらない。そしてこの痴態は自分の手によるものなのだと、そう実感するたびに立香のいきり立ったものがさらに膨張していく気がする。
「う、っく、ぐ、やめ、もう、ゆるし」
「だからそういうのが、だめなんだって!」
「ひぐ、う、りつ、か……あ、ああっ」
 浅い動きをやめて根元まで引き抜いたペニスを打ち付ける。怯えたようにやわらかくなったエルメロイ二世のペニスが動きに合わせてふるんふるんと揺れているのがなんだかかわいらしくもおかしかった。
「いいよ、もっと名前呼んで、もっと感じて、ほら、ここいいんでしょ」
 さきほど指先で探り当てたポイント、前立腺を亀頭で擦り上げてやると面白いくらいに反応する。
「い゛っ!? あ、ああっ!! そこ、やめ、ろ……おか、おかしく、あ゛あ゛あ゛っ!!」
「おかしくないよ、ほら、わたしが男になったんだから、先生が女の子になればちょうどいいでしょ? だからっ、ね? 女の子イキできるように、っふ、なろうね!!」
 もう立香が何を言っているのかわからない。わからないが、このままでは本当に取り返しがつかないことになると確信できた。
「いやだ、っ、ん゛ぅ!!」
 理性は抵抗しているのに、なのにどうしても快感をこらえきれない。このまま全部委ねてしまえば楽になれるのではないか、快感に身を任せてもいいんじゃないか。そんな誘惑に屈しそうになる。
「いやだいやだって、そう言うけど、もう先生のおちんちんは元気ないし、これじゃわたしが何もしなくても女の子だよね?」
「う、ああっ!!」
 立香が触れたペニスにびりびりと快感が走った。それが決定打だったのかもしれない。
「あれ? でもやっぱりおちんちんで感じちゃうんだ? ふーん……」
 愉しげな声で、立香はぱっと手を離した。
「なんっ、で」
 思わず失意に満ちた声で追いすがってしまう。視線を向けた先の立香の顔はまさに「計算通り」とでも言いたげ。
「触って欲しい? えっちな先生は、おしりぐぽぐぽされるだけじゃ足りないのかな?」
 何がしたいのかわかった。腹立たしいが立香の思うつぼだった。
「……っ、さわって、くれ」
 そうじゃないとイけない、イきたくない。せめてペニスを触られての絶頂でなければ、本当に自分が自分でなくなる。アヌスだけで達してしまうなんて絶対にいやだ。
「何を? 言ってくれないとわかんないなあ?」
 話が違う。にんまりと口元をゆがめる立香はまるで悪魔だった。
「っ、お前、ふざけ――んう゛ぅ!?」
「しょうがないなあ、ほら、ぐりぐりしてあげる。いいでしょ?」
 悪魔であっても情は残っていたのだろうか。立香は手のひらで亀頭だけを包んで刺激する。が、悲しいかなそれだけでは快感は得られても射精には至れない。
「おま、え、わざと」
 男の身ならわかるだろうに、いや、わかってやっているのだ、立香は。ふうふうと息を荒げながら睨んでも愉しそうな顔は崩れもしない。腹立たしい。その間も後孔はせわしなく責め立てられ、あと一歩のところで踏みとどまっているのが今にも崩れそうになる。
「は、ああ゛っ、う゛、い゛、いいかげん、っぐ」
「何? してほしいことがあるならちゃんと言わないとだめだよ?」
 言葉通り、してほしいことはしてくれず、反面望んでもいないことは積極的にしてくれるらしい。立香は「よいしょ」という掛け声と同時に、エルメロイ二世の腰を掴んで浮かせた。
「ひっ……!!」
 入ってしまった。
 どこに何が、ということはわからなくても、いわば防衛線のようなところを軽く突破されてしまったのはわかった。崩された、壊された。酸素を求めて喘ぐ喉は泣いているようにも見える。
「……わかんないけど、ね? 子宮まで犯されたらこういう感じなのかな?」
 立香は軽く総身を震わせながらそんなことをつぶやいた。元は女なのだから、自分の言葉に何かしら感じるものでもあったのだろう。
「先生の、奥、すごいよ……? ちゅうちゅう吸い付いちゃって、ああ、もう、出ちゃいそうだ……」
 想像しただけでゾクゾクと背筋が粟立つ。このままがつがつ突き上げて啼かせて真っ白に汚してやりたい。眼下で浅い呼吸を繰り返す男には普段の凛々しさもしなやかな美しさもない。ただもう、乱れに乱れた痴態だけが横たわっている。それがたまらなく――
「かわいい、先生すっごくかわいいよ……♡ もっともっと気持ちよくなっていいからね?」
 ゆるゆると奥へ押し込むように腰を動かすと彼は首を振って懇願した。やめてくれと。
「っ、は……あ、ああっ、だめ、おかしく、なる」
「おかしくないよ。かわいいねえ……ほんと……ほら、気持ちいいでしょ?」
 ストロークをやや深めにすると、喉をひきつらせるまでに嬌声が激しくなった。
「あっ、ああっ、いや、いやだ! こんなの、りつか、りつか、あ」
 喉笛にくらいつきたいのをぐうと堪えて立香は頬を撫でてやる。と、エルメロイ二世の手がそれを引きよせ、指を絡めてきた。本当に女の子みたいだなあと他人事のように感じながら立香はさらに勃起が膨張するのを感じた。そろそろ限界が近い気がする。
「うん、ほら、いるよ、こわくないよ」
 最後は抱き合ってイくのもいいかなあ、なんて考えていると、エルメロイの手が下半身へ伸びた。どうしたのかと思って視線で追うと、半勃ちのペニスを指先でつまむように持ち上げて、
「う、う……りつか、さわって、おねがい、だから……あ、あ、う、しごいて、たのむ、さわって」
 多分、自分でしようとしたのに手に力が入らなかったのだろう。まあ自力でするのを眺めるのもいいかも、なんて思ってもいたが、こんなふうにかわいくおねだりされてはたまらない。
「うん、わかった。おしりのあなぐぽぐぽしながらおちんちん扱いてあげるね♡」
 わざとらしく言って陰茎を掴み、じゅぼじゅぼと上下に扱く。気づかぬうちに先端からは、先走りの腺液とはまた違う粘度の低い液体が滲んでいる。なんだろう、と、考える余裕など立香にだってなかった。なにしろ、
「ふっ、う、ぐ、うあ、あ、きもち、い、もっと、もっとして」
「もっと、って、どっちのことかな……まあどっちもしてあげればいいよね♡」
 エルメロイ二世はこの通り、完全に快楽に屈してしまっている。たまらない。仕向けた本人だってここまでかわいらしくなってくれるとは思わなかった。ああできるならこの痴態を録画して永久アーカイブしてしまいたい。でもそんなことしたらどんな仕打ちを受けるかわからないし、大体嫌われたくはないからやっぱり自分の脳内にだけ保存しておこう。何より、まかり間違って第三者の目についてしまった、なんてことになったら腹立たしい。
「先生は、わたしだけの、なんだから……!!」
 ごちゅん、と穿ったそれが、結局誰も予期せぬ決定打になってしまった。
「い、あ゛あ゛あ゛あ゛!! 」
 エルメロイ二世の背中が浮く。射精を伴わない絶頂に押し上げられて、瞼の裏がチカチカした。死ぬんじゃないかと思うほどの強烈な、いっそ快感なんてものを通り越した性感でアヌスはびくびくと痙攣し、立香自身をぎゅううと締め付ける。
「え!? う、あっ、せんせ、それだめぇ……っふ、うううん♡」
 さすがに不意打ちだったのか、立香はその締め付けの中反射的に腰を引いてしまい、結果搾り取られるような蠢きに負けて達してしまった。
「うぁ♡ あ、は♡ これ、やば、あ♡」
 だらりと舌まで垂らしそうなほど弛緩した表情で、びゅくびゅくと精液を吹き出すペニスがさらに締め付けられる快楽を貪る立香。ちょっとお見せできないようないわゆるアヘ顔を、幸運なことに目にしたのは誰もいなかった。だってエルメロイ二世だって、力の入らない四肢を投げ出して呆然と天井を見ていることしかできなかったのだから。直腸にまき散らされた立香の熱い精がとどめだったのだろう、潮と精液の混じった汁をとろとろと先端から漏らしているのにも気づいていない。
「う、んんっ♡」
 ずるん、と、やや萎えたペニスが引き抜かれる。追いかけるように垂れてきたどろりと濃い精液を吐き出しても、アヌスはしばらくぽっかりとその口を開けていた。自分の形を覚えたな、と、立香は満足そうに笑い、
「んー、すっごいえっち……♡ またしようね、先生♡」
 仰向けに寝たままのエルメロイ二世に抱きつく。
 やめろ鬱陶しい、重い、死にたい。あと二度とこんなことしないからな。と、言いかけたのだが、
「……?」
 なんだか違和感がある。上半身に密着した立香はなんだか柔らかいし、重くないし、そう言えば声も低くはなかった。まさか、と、顔を覗き込もうとしたよりも早く本人が跳ね起きる。逆光でもわかる、そのシルエットは華奢で丸みのあるくびれを描いた、
「女になってるー!?」
 元の藤丸立香(女)に戻っていた。赤い髪、蜂蜜色の目、華奢な白い肌。もちろん股間に男根が残っているなんてファンタジーやメルヘンな事態では断じてない。
 涙が出そうだった。よかった、もう味を占めた立香が襲いかかるような悪夢はないんだ!
「よかったじゃないか、もとにもどっ」
「なんで!! まだ試したいこととかあったのに!! ひどい!! これが人間のやることかよぉ!!」
 立香は、よくわからないのだが、まだ女には戻りたくなかったらしくそう叫びながらベッドマットをだんだんと叩いている。さすがに呆れたし、若干どころではなく引いた。ともあれ身の安全が確保できた喜びは事実だったので不穏な言葉はあえて聞こえなかったことにする。
 立香としては大問題だ。何も知らない処女をこの手で手折るのも一興だが、快感を覚えた相手がさらに墜ちていくのも最高にそそる。というかどっちかというと後者こそ本番、後者こそ至高。その楽しみを眼前で奪われたのだ、これが悔しくなくてなんだろうか。
 ベッドの上にうずくまっている立香を呆れたように見下ろす影が一つ。
「試したいことと言えば、立香、私も試したいことがあるんだが」
「……何?」
上半身を起こしたエルメロイ二世は立香の下半身に手を伸ばし、尻たぶをむにっと持ち上げてその奥に指で触れる。
「ふえっ!?」
 きゅっとしまった菊花をくすぐると、身を捩らせて逃れようとするがそうはいかない。今は純粋な腕力で負けるはずがないのだから。
「あ、ん、先生、試すって、そんっ……」
「何、君にしてもらったことをそのままお返しするだけだ。問題あるまい?」
 目には目を歯には歯を、尻穴への凌辱は同じ行為を。
 怒りなのかなんなのかよくわからない光を目に浮かべたエルメロイ二世と、立香のポジションが入れ替わった。覚悟しろ、ねちっこさでは負けんぞと意気込むエルメロイ二世が先ほどの行為の残滓を指先でなすりつけながらアヌスを広げようとするが、
「ひうんッ!! あ、やだぁ、おしり、いじっちゃ、あ♡」
 なんとなくその声に甘さが含まれていると言うか、楽しそうというか、あんまり嫌そうじゃない気配を感じもしたのは気のせいだろうか。そうであってほしいのだが、悪い予感ほど、よく当たるものだった。