剃毛プレイ

 自分よりも脆く柔らかい体を抱いているのがひどく不思議な気分だった。
 男女の性差がある上で比べるのもおかしな話だが、一時期の私、ちょうど彼女と同じように、サーヴァントのマスターだったころの私と同じくらいの背丈、年頃だろう。その未熟な肢体に耽溺しているのは途方もない背徳だった。「私」がこんな小娘に手を出すなど考えられない。しかし彼女を抱きたい。他ならぬこの「私」が、他ならぬ「彼女」をこの手で汚してみたい。汚す、汚してしまうのだろう。あるいは可能性を摘んでいるのかもしれない。そう思うと歪な欲望がじくじくと刺激され、薄汚い満足感すらこみあげてくるようだった。人でなしと唾棄されることも少なくはない魔術師という身分を得ていたのだから、自分が高潔な人間だとのたまうつもりは毛頭ない。しかし今こうして、かつての私なら「突拍子もない」と言いそうな状況に、私自身が望んで行為に及んでいるというのは、実に奇妙な感覚だった。
 彼女は手慣れているわけでもないが、初心というわけでもない。過去をどうこう言うつもりがお互いにないのは当然と言えば当然なのだが、私の手のひらにどこをどう触られても水気の多い溜息をこぼす、そういうところは少しだけ、期待外れと言ってもいいかもしれない。
「あ……」
 声帯が震える。かすれたような音が耳朶を打つ。胡坐をかいた片膝の上に座らせた少女の上着を脱がせ、下着越しに愛撫を繰り返すその間も、唇は渇くことがない。私に触りたくても腕が届かないためだろうか、彼女は唇ばかりを求めた。
 桜桃のようだった。赤く、甘く、小さい。
 くびれた胴に沿わせていた手のひらは、使命感めいたものに駆られるように上へと這い上がっていく。私は硬く強固な砦のような下着を外さず、やや浮かせた隙間から手を差し込んだ。
「ん、っ」
 苦しいのだろうか。と、考えることはしても、やわいふくらみから手は離さない。土台苦しくはないだろう。ぼうっと惚けたような両目は私を見上げている。その先を求めるように。
「せん、せ」
 短いスカートから伸びた太ももが耐えるように擦りあわされているのは気づいていた。今日は最初からあの黒いタイツは履かれていない。私とこうなることを期待していたのだろうか、と思うと、素直にうれしかったし、昂ぶるものがある。彼女とはこれが一回目になるが、性交自体の経験がないわけではないというのに。我ながら年甲斐もない。
 節くれだった指で太ももに触れられ、私のシャツを掴む彼女の手に力が込められた。内側の皮膚は赤ん坊のようになめらかで、敏感らしい。少し擦っただけでびくびくと震える。すでに快感を覚え始めているのか、それとも予感に身を震わせているのか。
 どちらでもいい。直に何もかもが熱に溶けていく。
 するりと滑り込んだ指先がショーツの生地を捉えた。先ほど胸元にしたのと同じようにその間に滑り込ませる。じんわりと熱い柔肌があると、私は確信していた。
「……何?」
 だから、驚いた。というよりも、仰天した。
 私の指先が触れたのは皮膚でも粘膜でもない。
「先生? どうし――うわっ!?」
 確かめなければならなかった。いや、触れた以上確認するまでもないのだが、それでもこの目で見なければなるまい。
 私は彼女を寝台の上に転がすように寝かせ、乱暴だとはわかっていながらも、一気にショーツを引き下ろした。
「……」
 絶句した私を彼女が不安そうに見上げている。というか、困惑しているのだろう。一体どうしてこんなことをするのか、自分の体に不都合でもあるというのか。そんな問いが表情に浮かんでいる。
 不都合……不都合なのだろうか。差し障りはないとは思うが、自分の常識に照らし合わせた結果、「不都合」の判定が下された。
「マスター、なぜ処理しない?」
「え? ……処理?」
「ここだ」
 下着をはぎ取られ露わになった部分にそっと触れる。やわらかい、焔の色の毛がそこには控えめに茂っていた。
「処理……? 処理って……え、剃る、とか?」
「剃るなり抜くなりするものだろう」
「……はい?」
「……何?」
 お互いに「何を言ってるんだ?」という顔だった。
「ちょっと待て、普通処理するものだろう?」
「え? ええ!? 先生何言ってるの!?」
「しょ……処理したことないのか!?」
「逆に聞くけど先生、まさ、か、処理してるの!?」
 マスターの行動は素早かった。寝転んでいたのが跳ね起きたと思ったら、私のスラックスの中に遠慮なく腕を突っ込み、的確に下着の中まで手を入れて確認するようにごそごそとまさぐる。半分ほど勃っていたものに指先が触れたのは中々羞恥を覚えるものだったが、お互いに今はそれどころではなかった。
「ない……」
 ずぼっと手を引きぬいたマスターは、驚愕に目を見開いている。眉間にしわまで寄っているあたり相当にショックだったのだろう。それは私もなのだが。
「な、なんで先生、剃ってるの!?」
 ちくちくした、と、彼女は手のひらと私の顔を見比べつつ動揺している。伸びかけているのだ、それはしょうがない。
「なんでもなにも習慣だからだ」
「習慣!? え、あの、なんか特殊な性癖とかじゃなく……?」
「は? 特殊な性嗜好なのは君のほうじゃないのか?」
 わざわざアンダーヘアーをそのままにしておくなんてよほどのことがない限りやらないのでは?
「そんなんじゃないし!! だ、だって生えてなかったらちっちゃい子みたいだし、ま、ま、丸見えじゃん!! そんなの恥ずかしいよ!」
「恥ずかしいも何も股間はそうそう人目にさらすわけでもなかろう。むしろ伸ばしたままでは蒸れるし雑菌は繁殖するし不衛生だろうが」
「ふ、不衛生……?」
 あっ、と、口を押えても遅かった。彼女は今の一言で、明らかにショックを受けている。
「い、いや別に君個人が不衛生と言っているわけではなく、今のはただの一般論で……」
「……わたし……生まれてこのかた処理なんてしたことないです……そんなこと聞いたこともなかった」
 よくよく聞いてみると、彼女の生まれ育った日本では陰毛をすべて処理する習慣はないらしい。驚きだった。習慣や風俗は国によりけりというのは理解していたつもりだが、人間一人の知識の及ぶ範囲など狭いものということだろう。
 が、しかし。
「それはそれとしてマスター、処理はしておいたほうがいい」
「……どうしてそうなるの~~?」
 半分泣きながらの抗議に私は滔々と自説を説いた。
 マスターは現在人理復元のために様々な地へレイシフトしている。一度向かえば特異点の原因となっている聖杯を回収するまでカルデアには戻れない。つまり、向かった時代によってはその間ろくな衛生環境もない場所で過ごす羽目になる。風呂に入れない日々も数日では済まないだろう。
「わかるな?」
「わかんないよ!?」
 ええい聞き分けのない。
「だって今までだって大丈夫だったもん! ほら、三蔵ちゃんたちと一か月旅したって全然平気だったし!」
「ん、そう言えばそんな事件もあったな。荒野に一月、その間風呂も入れなかっただろう? またいつ何時似たようなことになるかもわからん。やはり処理が望ましいな」
「逆効果だった!!」
 わめくマスターを横抱きに抱え、じたばたと両足を動かしての抵抗も黙殺し、バスルームへの移動は問題なく完了した。
「ほ、ほんとにするの……?」
 これが情事に及ぶ直前の発言ならばまだ可愛げもあったものだが、バスタブのふちに座らされてハサミ片手の私を前にまだ覚悟の一つも決まらないというのか。
「君もマスターなのだからいい加減観念しなさい」
 今の私は彼女の脚先に跪き、まさに従者のような姿勢だった。ワイシャツの袖は捲っているがそれ以外はそのまま。一方彼女は睦み事の途中で抱えられてきたために上半身はともかく下半身は一糸まとわぬ姿だった。そのどうしようもない格好で彼女はげんなりとする。
「ま、マスター関係ねえ……」
「始めるぞ、動かないように」
 さすがに傷つくのは嫌なのだろう。ハサミの刃を開くと彼女は押し黙って身動きするのをやめた。銀色の刃がしゃきしゃきと動くと、バスルームの淡い照明が反射する。彼女の髪より少し暗い赤はみるみるうちに刈り取られていった。
「なんか……へんな感じ」
 全体を短く整え、ハサミを軽く洗うと彼女がそっとそこに触れながらつぶやいた。
「うわ、ちくちくする、やだな……」
「これから全部剃るのだから気にすることはないだろう」
 梱包材のビニールを破って新しい剃刀を取り出すと、マスターは露骨に嫌そうな、怯えるような顔になった。無論、そのまま刃を当てたりはしない。
「先生、それ何?」
「シェービングクリームだ」
 刃のすべりをよくするためもあるが、これには抗炎症剤と化膿止めが含まれている。
「それ、もしかして先生が髭剃るときに使ってるの?」
「ああ。……嫌か?」
「ううん。嫌じゃない。なんか、先生にも髭生えるんだなあって思ったら……えへへ」
 言わんとすることがなんとなくわかる気がした。確かに私はどう贔屓目に見ても雄々しいとか猛々しいとかいう見た目ではない。それでも髭くらいは生える。それが彼女には、意外だったのだろう。
「すべすべだもんね」
 言いながら顎に伸ばされる手のほうが柔らかい。その指先に唇で軽く触れると、くすぐったそうに逃げて行った。
「なんか変な気分。先生の髭剃りローションでこんなとこ剃られる、とか」
 語尾が不安定に揺れたのは、白いクリームを塗りつけられたからだろう。上の方から少しずつ塗り伸ばしていくと、さすがに場所が場所のためか、ひくりと脚が震える。
「動くと危ない」
「うん、」
「……我慢しなさい」
 別にこれを前戯にしてしまおうなんて思っていたわけではないが、どうにも変なスイッチでも入ってしまったのだろう。熱に浮かされたようにうっとりとし始めた双眸に不安を感じてしまう。
「マスター、頼むからうっかりバスタブにひっくり返るのだけはやめてくれ」
「えー……先生がこう、腕を伸ばして助けてくれないの?」
「筋力Eをなめるなよ」
「都合のいいときだけ……」
「魔術師とはそういうものだ」
 フンと鼻で笑うと、同じようなため息が降ってくる。クリームを塗り終えた私は一旦立ち上がり両手を水で洗い流す。マスターは別に、逃げ出すわけでもなかった。
「さて、」
 流水で軽く流した剃刀を振り、水気を飛ばす。
「はー……せめて優しくしてください」
「言われるまでもない」
 冗談めいた言葉ではあるが、やはり不安そうだった。ご機嫌取りのように唇を落としてやると馬鹿みたいに呆気なく笑顔になる彼女が、彼女が――私には眩しいのだろう。目をそらしてしまった。
 薄い刃を当てる、下方へ滑らせる。削がれたクリームの中に、まばらに赤い「線」が混じっていた。よし、ちゃんと処理はできつつある。肌はなめらかなままにその白さだけが際立っていく。洗面台では開かれたままの蛇口から水が流れ続け、時折差し込まれる銀色の刃を洗った。何度も繰り返されるうちに恥丘があらわになっていく。なだらかな表面に私は満足すらしていたかもしれない。ゆえに作業に没頭した。傷つけぬように用心していたのでずいぶん集中もした。マスターがどんな顔をしているかも確認することもなかったほどに。
「……脚を開いて」
 反発されることはなかったが、すんなりと従ったわけでもない。ためらいがちにおずおずと開かれた脚の間を、さらに指先で、ぐに、と広げる。太腿の付け根側を外のほうへ引っ張り、剃刀を当てようとすると、とうとう羞恥に堪えかねたのかべそをかいていそうな声が降ってきた。
「せんせ、恥ずかしいよ……」
「我慢しろ」
 酷かもしれないが我慢してさっさと終わらせたほうが羞恥も少なくてすむ。大陰唇や陰核を傷つけぬ陽慎重に刃をすべらせる。そのためには触れなければならないところも、ある。
 なるべく考えないようにしている私はともかく、否応なしに敏感な部分を触れられるマスターは、確かによく耐えたものだった。
「……完了だ」
 剃刀を洗い、蛇口を閉じる。皮膚にはまばらにクリームが残っているが、アンダーヘアーはきれいさっぱりとなくなっている。心もとないのか、マスターはそっとなめらかな肌に触れては眉を下げていた。
「後は洗い流して、保湿するだけだ」
「ん……」
 シャワーヘッドを壁のフックから取り外し、先ほどとは別の蛇口をひねり温度を調節する。マスターを空のバスタブの中に立たせ、洗い流してやろうとしたのだが――
「自分でするか?」
 さすがにここまで私がすることもないだろうと思い直し、その手にシャワーヘッドを一旦は押し付けようとした。が、彼女はゆるく首を振る。
「先生が、して」
 情欲が、けぶる。
 その目が本当は何を望んでいるかなど今更問いただす必要などなかった。
「先生に、してほしい」
 ざあざあと床面を叩きつける水の音、ぬるま湯の温度から立ち上る湿った熱気。
「――わかった」
 もとより「それ以上」に及ぼうとしていたのだから拒む道理もなかった。
 下腹部にあてた水流が残滓を残らず洗い流していく。表面をなぞるようにゆるゆると這う指先に、少女は過敏なほどに反応していた。雨音に似たせせらぎの合間に、ひきつるような溜息が混じった。
「ん、ふ……あ、う」
 割れ目の部分に指を滑り込ませると、一際大きく喘いでいる。
 多分、だが、今回初めてむき出しになったために刺激が大きすぎるのだろう。眉を寄せている理由が痛みというわけではないだろうが、なるべく穏やかに触れようと心掛けた。
「なんか、……っふ、なんか、へん……」
「変?」
「だって、つるつるになっちゃって、先生の、ゆび、っ、わかっちゃう」
 苦笑した。頬を染め涙をたたえた目で見上げられ、黙っていろと言うほうが無理な話だ。
「   」
 身をかがめて耳元で彼女の名を呼んでやると、これ以上ないくらいにわかりやすく、少女のからだが歓喜に震えた。口元が歪む。もっと淫らな顔が見たい。指先は明確に標的を定めていた。人差し指を曲げ、ちょうど角になった関節でクリトリスをぎゅうと押しつぶす。
「あ、っ! や、あ……」
 そのままぐりぐりとゆるく押し込むように刺激してやると、彼女の両腕が私にしがみついてくる。悪い気はしない。どころか、嬉しいとすら思う。
「せんせ、え、あう……ん」
 相変わらずシャワーからは無為にぬるま湯が垂れ流されている。しかし誰もそれをどうしようとも思っていない。閉ざされたバスルームには甘い嬌声が満ちはじめたがすぐに唇が塞がれた。求められたからだ。無理矢理首元を引き寄せられたせいでシャワーがバスタブの中に落ちる。ごとん、と嫌な音がするのと同時に吹き出す水が暴れ回り、彼女の脚も私の腕もいっしょくたに濡らしていった。 
 もはやクリームは肌の表面に残ってなどいない。洗う理由はなくなっても私の指はそこにとどまったままだった。口づけた隙間から否応なしに漏れ出る熱い吐息をもっと貪りたい、とでも思ってしまったのか。私は責め上げる手を緩めなかった。と、指にぬめったものが触れる。それは外側からなどではなく、内側からじわじわとにじみ出る蜜だ。
「んっ! ん、んう、ふ、う!」
 くぐもった悲鳴は、中指を内部へねじ込んだせいだろう。ねじこむと言ったところでせいぜい爪が隠れる程度だ。それでもかき回せばくちくちと音がしそうなくらいは内部もしとどに濡れている。
「マスター、さっきの処理で濡れたのか」
 意地の悪い質問をすると、開き直ったような憮然とした顔を向けられた。
「だって、しょ、処理って言ったって、好きな人に触られるんだよ……? だいじなとこ……しょうがないじゃん……」
「……」
 正直に言えば予想外だった。うるさい、とか、そういうこと言うな、とか、ありていに言えば罵詈雑言でも飛んでくるかと思ったらこれだ。こちらが考えもしなかった「かわいらしい言い訳」をされて、一瞬で体中の血が沸騰したような高揚を感じてしまう。
「ばか、先生のばか、責任とっ、え? あ、んっ!?」
 ぐ、と指をさらに奥に押し込む。押し込んだまま、最奥の肉壁をいつくしむように撫で押した。
「そうだな、すまなかった。責任を持って君を存分に満足させよう」
「んあ、ああっ、おく、せんせ、っ、ふ」
 ひくん、と痙攣するようにうずく内壁がだんだんと指先に馴染んでいくような気がした。溶ける。融ける。解ける。ゆるやかに弛緩していく四肢を支えながら、私は彼女の名前を呼んだ。こんなときでもなければ呼んでもやれない。
「愛しているよ。もっと喘ぎ、乱れた姿を見せてくれ」
 本心など一切こめなかった。そのつもりだった。しかし私は、わからない。彼女が思い込みだけで歓喜しているのか、すべてわかった上で虚偽に悦んでいるのか、私にはわからない。私自身、言ったことが真実か欺罔かわかっていなかった。しかしそんなことを考え付く時点で、言い訳している時点で、もう明らかだろう。
 私は溺れている。どうしようもない肉欲にまみれ、彼女を汚そうとあがいている。
「あ、っ、あ……だめ……いっちゃ、う」
 恍惚にか細く紡がれる悲鳴には必死の色があった。懸命に両足で立たせ、二本の腕は私にすがりついている。中指で内側を責め立て、人差し指の付け根でクリトリスを揺さぶって刺激する。それが彼女には「よかった」らしい。
「せんせ、いい? いってもいい? わ、たし、も、ぉ……だめ」
 余裕などない扇情的な表情だった。汗がにじんでいる。
 この顔が見たかった。いや、この先すら私は手に入れたいと願っている。それはもう目前に迫っている、終着でありながらも単なる息継ぎでしかない。
「ああ」
 いきなさい、と、言う代わりに指先に意識を集中させる。ねっとりと絡みつくような愛液をかきわけるように、指先は肉襞をえぐった。それが、決定打だったのか。
「ひ……! だ、め、ぇっ、ふ……あ――!!」
 がくん、と大きく跳ねた体を抱きとめる。痙攣した足がシャワーヘッドを軽く蹴り飛ばしたせいで、私のシャツは胸まで色を変えた。未だ指先はしゃくりあげるようにひくつく彼女の内側をやわやわと慰めている。しばらく余韻を味わっていたが、安息は可愛げのない一言で破られた。
「筋力Eでも……支えれるじゃん……」
「そういうことはここまで抱きかかえてきたときに言うべきではないか、な」
「ん、っ」
 ずぬりと指先を引き抜くと、名残惜しそうに震えている。実際まだ未練なり不満なりあるのだろう。しなだれかかる肢体が、誘惑する双眸が私を捉えて離さない。
「ねえ先生、これでおしまい?」
 まさか。
「君は浴室で最後までしてほしいのか?」
 できないことはないだろうが、ここは本来情交のための場ではない。
「ん? んー……じゃあベッドまでまた運んでくれるの?」
「またか?」
 そんなに横抱きにされるのが気に入ったのか、君もなかなか少女趣味だなと眉をひそめると、からかうように笑われる。
「あれー? いやなの? もしかして抱っこしたら体力なくしちゃうとかぁ?」
 さすがにあからさまに気を悪くすることはないが、スイッチが一つ入ったのは事実。
「試してみるか?」
「試す?」
「何度できるか試してみようか?」
 覗き込んだ顔が目を丸くした、と、思ったら舌なめずりでもしかねない顔でにんまりと笑う。こちらも妙なスイッチを押してしまったかな、と、やや後悔しそうになったが、それが後悔になるかどうかは、今はまだわからない。私たちは浴室を後にした。再びここに来るのは、果たして何時間後のことだろう。